近年、比亜迪（BYD）をはじめとする新エネルギー車メーカーが急成長を遂げ、中国自動車市場で長年の優位性を誇っていた合弁自動車メーカーの市場占有率が次々と突破されています。

一部では、合弁メーカーが中国市場から撤退するとの声すら上がっています。

「合弁車を買うのは時代遅れで、車に詳しくない選択だ」との評価が広がり、大衆（フォルクスワーゲン）ですらこの流れを止められず、同社の世界販売台数とランキングは近年トヨタに押し下げられています。

しかし、一汽トヨタは2023年11月に9万台以上を販売し、前年比38%増の成長を達成、同月の歴代最高記録を更新しました。一汽トヨタは年80万台販売目標に向け全力を掲げ、12月には月間10万台突破の可能性を示唆しています。

一汽トヨタが再び動き出した今、合弁メーカーはただ衰退しているだけではないことが証明されています。

合弁メーカーの苦境と一汽トヨタの差別化戦略

自主ブランドの台頭と電動・スマートカーの普及が進む中、従来型の内燃機関車に注力する合弁メーカーは厳しい競争環境に追い込まれています。製品のコストパフォーマンスやスマート機能でリードできない状況下、中国ユーザーから見放されるのは必然と言えるでしょう。

そんな中、一汽トヨタは他の合弁メーカーとは一線を画し、トヨタのハイブリッド技術を活かした高品質かつ低燃費のモデルを中国市場向けにカスタマイズ。2024年1月から11月の間で、ハイブリッド車の累計販売台数は28.88万台に達し、前年比30%増を記録。販売全体の41%を占め、全モデルにハイブリッド仕様を提供しています。

さらに、一汽トヨタは2024年に主要モデルの刷新と改良を完了し、プラドやクラウンセダンといった高級モデルを再投入。また、比亜迪（BYD）の電動技術を採用したEV「bZ3」を全面的に推進しています。

2024年、一汽トヨタは最も積極的に市場対応を進めた合弁メーカーであり、年末の売上急増はその努力が市場とユーザーに認められた結果といえます。

高成長の代償と一汽トヨタの挑戦

月間10万台の販売目標達成には、多大なコストが伴います。

例えば、古い車両からの買い替え補助など、中国政府の消費促進政策を最大限活用し、一汽トヨタはこれまでにないほどの値下げを実施。ユーザーにとっては「これ以上安くはならない」と思わせる価格戦略で財布の紐を緩めています。

一汽トヨタの値下げ戦略は業界では唯一の事例ではありませんが、他の合弁メーカー（フォルクスワーゲン、GM、日産など）の価格競争とは異なり、全モデルの売上回復に成功しています。

特に、RAV4とカローラクロスが「SUVツインスター」として4万台以上を販売（前月比122%増）、カローラとアバロンも合計2.4万台を販売（前月比150%以上増）するなど、車種別で大きな成果を上げています。

一汽トヨタの課題と中国市場での未来

一方で、一汽トヨタの販売実績を詳細に見ると、ブランド強化の課題が依然として残っています。

例えば、高級モデルのアバロンは巨額の値引き政策にもかかわらず、販売台数は1万台程度。クラウンクロスオーバーやプラドもブランド力向上には寄与できていません。

また、価格戦略による新車販売の利益率低下は、一汽トヨタ全体の収益性に深刻な影響を及ぼしています。

トヨタ中国には、もう一つの主要拠点である広汽トヨタがあります。広汽トヨタは利益率を重視し、価格競争を回避する戦略を取っています。

このため、一汽トヨタの過度な値引きがトヨタ全体のグローバル戦略モデル（RAV4やカローラ）の価格体系とブランド価値を損なう可能性が懸念されています。

2024年の販売成績が予想以上の結果を残したとしても、一汽トヨタがこの勢いを2025年以降も維持できるかは疑問が残ります。

加えて、電動化時代を迎え、bZシリーズの新型モデル（bZ3Cなど）が収益源となるかも不透明です。

一汽トヨタと広汽トヨタ：トヨタ中国内部の戦略調整

広汽トヨタは創立20周年で、5年以内に100万台規模を再達成すると宣言。価格戦争から離脱し、顧客サービスの向上と販売店ネットワークの強化に注力しています。

一汽トヨタが歴史的な80万台年間販売記録を達成しつつある一方で、その代償として広汽トヨタとの競争が激化し、トヨタ本社としては微妙な状況にあります。

日本と中国の株主間での権利調整や収益性をめぐる議論が今後も続く中、一汽トヨタは市場内での存在感を維持するため、2025年にさらなる新モデルの投入が期待されています。

しかし、「利益を犠牲にして生き残る」か、「持続可能な成長」を目指すか、そのバランスが今後の鍵を握るでしょう。